イヌの起源・その1・一万二千年の時を越えて

 約1万2千年前の老女と仔イヌ(注1)の埋葬跡、屈んだ老女の左手が仔イヌの胸に添えられていました(下図)。これは、現イスラエル北部の洞窟(Ein Mallaha遺跡)で発見された、犬と人間の関係を示す最も古い証拠(注2)とされています。遺体の埋葬状況から判断して、老女と仔イヌの間に愛情に通じる感情があった、あるいは少なくとも遺体の埋葬者に何らかの意図があったのは確かです。

(左図)Ein Mallahaの洞窟で見つかった老女と仔イヌの埋葬跡。人骨頭部上、左手の位置に重なるように仔イヌの骨が埋葬されている。

Simon J. M. Davis et al., " Evidence for domestication of the dog 12,000 years ago in the Natufian of Islael" Nature vol.276, p608-610、 より図引用。

 この老女と仔イヌが埋葬された当時、彼らはいったいどんな生活をしていたのでしょうか。彼らの文化はナトゥフ文化(Natufian)と呼ばれ、狩猟(主に魚)および野生穀物を採集して生活していたと考えられています。また。石造りの家などが見つかっていることから、まさに人類が放浪生活から定住生活を始めた移行時期とも考えられます。このナトゥフ文化の遺跡からは、多くの動物彫刻が見つかっているそうですから、彼らと自然、動物との深い関わりが想像されて、興味深いですね。その後、彼らが羊や山羊などの牧畜を始めるのはずっと後になってからです。人間とイヌの特別な関係は他のどの家畜とよりも早く形成され、それが少なくとも1万2千年以上前に始まった事は間違いないでしょう。

 生前も仔イヌに添えられたであろう老女の左手。
1万2千年の時を越えて・・・、彼女の心の動きを自分の中に感じています。
まさにこの感情が、イヌの起源を探る原点なのだと思います。

注1:便宜上「仔イヌ」と表現していますが、原著の論文中では、限りなくイヌに近いとしながらも、明言は避けています。この化石の歯の形状は、現存のイヌ、オオカミに近く、ジャッカルとは異なる事が報告されています。

注2:これよりも古い時期のイヌらしき化石は発見されています。

2002年1月
「ソロモン王の指輪」管理人
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