イヌの起源・その3・イヌらしいイヌが生まれた理由
 イヌの起源がオオカミの先祖であると「その2」で述べました。シベリアンハスキーなどはオオカミに似ていますから、納得がいくような気がしますが、それにしてもチワワやセントバーナードも同じオオカミに起源するというのは、とても不思議ですよね。今回は、イヌたちの多様な姿・形と、性格(行動学的性質)に関するおもしろい仮説を想像を交えて紹介します。

 イヌ(オオカミ)が人間の友達になる最初のキッカケになったのは、人間の出す残飯と、その処理係という関係だったのではないかと考えられています。そのような関係から、やがて人間は仔イヌ(オオカミ)を手にいれる機会を得、飼い馴らし、彼らに愛情を感じていたのでしょう。

 ところで、イヌがイヌらしく進化してくる過程で、人間は「どんな基準で」彼らを交配していったのでしょう。もちろん、イヌたちと暮らし始めた遙か昔の人類が、進化の概念を持って計画的に交配したなどとは思えません。そこで、最もありそうなのは「自分のお気に入り」を交配していた、という考えです。誰だって、自分の愛着のあるイヌをより大事にする傾向はあるし、その仔が欲しいと思うでしょう。この愛される素質とでも言うべき性格的要素は、「人なつこい、人馴れしやすい」事だと考えられます。

 この点に注目して、ロシアのDr D. Belyaevらの研究者グループがキツネを使った大がかりな実験をしています(現在も、研究は続けられています)。彼らは、養殖用の銀ギツネ(毛皮用)のコロニーの中から、「人馴れの良い」キツネだけを選択的に交配し、その結果、「野生の銀ギツネには決してみられなかった形態的特徴を持つキツネ」を得たのです(下写真参照)。そして、驚いたことに、彼らの形態的特徴は、現在のイヌが示す特徴に非常によく似ていたのです(垂れ耳、毛色の変化、巻尾、さらに年2回の発情など)。

 

「犬 その進化 行動 人との関係」ジェームス・サーペル編・森祐司 監修・武部正美 訳 
チクサン出版社 p.72より引用

 この実験結果は、オオカミの中で「人馴れのよい行動」を選択した結果、2次的に犬としての形態的特徴が現れたのではないか・・・という考えを強く示唆します。(キツネを飼い慣らすとイヌになる・・・なんて事を示そうとしたわけではありません!?)逆説的に説明すると、イヌが垂れ耳やブチの毛色、巻尾など、野生のオオカミには見られない特徴を示すことは、彼らが「人馴れの良い行動」を指標に選択された可能性を示唆してもいます。残念なことに、このロシアのグループはロシア語の論文しか発表しておらず、英語の国際紙には一つも報告がありません。

 イヌの持つ形態的特徴の全てが、このようにして獲得されたわけではないでしょうが、幾つかの形態的特徴は、彼らの性格と関連しているのかもしれませんね。また、「人馴れのよい行動」とは、幼児的な行動と深く関連しているように思えます。そして、イヌの示す外見が、どちらかというとオオカミの幼児期に見られる特徴と一致するのも、おもしろいと思えます。この点に関しては、また改めて取り上げたいと思います。

2002年1月
「ソロモン王の指輪」管理人
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