Kingsolomon's Ring - Books -

ハヤカワ文庫 ISBN4-15-050222-6

 著者のローレンツ博士は、動物行動学の分野を開拓したノーベル賞科学者です。
彼の代表作といえるのが、この「ソロモンの指輪」です。
愛すべき隣人、動物たちと仲良くするためには、まずは相手を良く知ること。
「科学者が書いた」と言うと堅苦しく聞こえるかもしれませんが、
彼の著作はユーモアに溢れ、洞察に優れ、そして優しい言葉が満ちています。
”刷り込み”と呼ばれる発見をした時のおもしろおかしいエピソードだけでなく、
多くの種類の動物たちと共に過ごした体験を鋭い洞察を持って書いています。

 私がこの本を読んだ最初の記憶は、小学生時代にまで遡ります。
動物が大好きだった私に、両親が選んで買い与えてくれたのでしょうが、
この一冊がどれほど私に影響を与えたか、当の両親にも想像できなかったでしょう。
当時小学生の私が、どれほど内容を理解していたのかはともかく、
この本を読み、その後テレビで見た
「ハイイロガンの雛を引き連れて歩き、泳ぎ、空を飛ぶ白髪の老紳士 
(=ローレンツ博士)」は、当時の憧れとなりました。
もちろん、今でも尊敬する研究者の一人です。

 皆さんは「刷り込み」という動物行動学の専門用語(理論)をご存知ですか?
よちよち歩きの小ガモが、親ガモの後ろを必死で追いかける微笑ましい光景、
今では、これがまさに”刷り込み”を説明する代表例となっています。
そして「生まれたばかりのカモの子は、最初に見た”うごくもの”を追いかける」
という発見が、この”刷り込み”理論の出発となりました。

 ところで、この「よちよち行進現象」を説明したことのどこがスゴイかって?
それは、生まれたばかりのカモの子は、「親を知っている」のではなくて、
動き回る親を「学習によって刷り込まれて」知るということを証明したからです。
「追いかける」本能と、「何を?」という学習が重なって、
「親を追いかける」という行動が成り立っているのですね。
”本能って何?”そんな問いに対する答えが見え隠れする彼の著書は、
もちろん人間の本質についても、多くの示唆を与えてくれます。

 著者ローレンツ博士は、このような発見の後に「ノーベル生理学医学賞」を
受賞しています。彼は動物の行動に関する科学論文をたくさん発表していますが、
驚いたことに、彼の論文には全く図表が登場しないのだそうです。
今では科学論文の常識とも言える統計処理を行わず、全くの観察に基づいた
考察という形で論文を発表していたようです。これは、本書の訳者、日高敏隆氏の
講演で聴いた話ですが、非常に感銘を受けました。

「知る」、「考える」そして「いきもの」とは・・・・
観察し、洞察し、そして知ると言うことはかくも素晴らしい、と思わせてくれる一冊です。

2001年11月2日 
「ソロモン王の指輪」管理人